Paraglider joho box.[What's JHF *法務委員会]
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緊急掲載!
JHF法務委員会は2002年3月30日、その活動の報告をインターネット上に公開しました。
そこにはとても重大なことが記されています。
私たちJHFフライヤー会員は、このインターネット上に公開された情報を全員で共有しましょう。
せっかく掲載された法務委員会の情報が削除されかねない状況なので、重要な内容を全文保存し、この場に転載します。
●JHF法務委員会ホームページ内容を転載します。
http://www8.ocn.ne.jp/~samjii/ ←#JHF法務委員会ホームページより転載
ある日の法務委員会の会合にて―その1
(ケーススタディ:東京地裁平成12年ワ9780号損害賠償請求事件についての解説)
場所及び日時 都内のある静かな喫茶店内その他の飲食店にて、某月某日。
登場人物: 会長 A、担当理事 B、法務委員長 C、法務委員 D、
尚、以上の設定は、すべてフィクションです。
1.2.3.4.5.6.7.
その1−1.事実の概要と原告の 「請求の趣旨及び原因」
B 本件訴訟の事実の概要と原告の請求の根拠を簡潔に説明していただけますか。
C はい。 まず、事実の概要ですが、1997年5月17日に開催された高山ホルンバレーカップにおいて参加選手が大会競技中に墜落死しました。
ご遺族(両親)が、墜落死という損害の賠償(1億221万7376円の内の一部)として5千万円の支払い(=請求の趣旨)を被告側に求めて提起したのが本件訴訟です。
B 原告は、その請求の根拠(理由づけ=請求の原因)としていかなることを主張しているのですか。
C 本件の被告は、甲社とその代表取締役である乙氏(両者は実質的に一体)と連盟の三人です。
原告の主張は、前者(甲社とその代表取締役である乙氏)と連盟とで異なっています。 まず、甲社とその代表取締役である乙氏については、甲社とその代表取締役である乙氏すなわち大会主催者に、大会出場契約に付随する安全配慮義務違反があり、これが原因で参加選手の墜落事故が発生した等、というものです。
連盟については、明確な基準を設けて公認大会における安全指導をすべきであるのにそれを怠った等、というものです。
A 質問ですが、死亡という損害の賠償請求権は誰に発生するのですか。
D それは、法的には、死亡した参加者本人に発生するとされます。
この死亡した本人の損害賠償請求権を相続によって両親が取得したとして提起されたのが本件です。
C ですから本件訴訟は、実質的には、連盟会員間の紛争(訴訟)といっても過言ではないと思われます。
D委員の説明に補足しますと、生命侵害による損害賠償請求権の相続性は大審院大正15年2月16日第二民事部判決以来維持されている裁判所の法律構成です。
A 良く分かりました。 次にお聞きしたいのですが、
その1−2.安全配慮義務について
A 「安全配慮義務」は、民法か何かに明文はあるのですか。
また、参加選手・パイロットの「自己責任の原則」とどのような関係に立つ「義務」なのでしょうか。
D 「安全配慮義務」という用語自体は、民法の明文にはありませんが、安全配慮義務は、契約に信義則(民法第1条2項)上付随する義務として認められています。 そして、この義務の違反は、債務不履行として構成されます。
これは、確定した裁判所の見解です(最高裁判所昭和50年2月25日以降)。
よって、(原告の主張する)損害賠償請求権の根拠となるのです。
C 学会においても、この義務の存在自体については、概ね争いは無いでしょう。
D そうですね。 スポーツに関する最近の判例(大阪高裁平成3年10月16日)も参考までに紹介します。
これは、ある町がトライアスロン大会を主催し、参加者が溺死した事件です。 以下が裁判所の見解です。
「 競技を主催した者は、その競技に関する契約に基づき、参加者に対し、競技を実施する義務を負う事は前述のとおりであるが、これに付随し、その競技が危険を伴うものである場合には、その参加者が安全に競技できるように配慮し、救助を要する事態が発生した場合には直ちに救助すべき義務を負うことはいうまでもないところである。
そして、本件大会のように沖合で長距離を泳ぐというような水泳競技大会においては、競技者に溺れる者が出るなどの事故が発生する可能性を否定できないため、その主催者は、競技コースの設定に配慮すると共に監視者、救助担当者を配置し、救助機器を用意して救助体制を整え、かつ参加者に救助を要する事態が発生した場合や、参加者から救助の要請があった場合には直ちに救助する義務があるというべきである。」
ですから、裁判所が、一般論としての安全配慮義務を認めることは間違いないことです。
C 本件訴訟において、被告(大会主催者)もこの一般的な「安全配慮義務」が自らの側にあることは認めていますので、この義務の存在自体については争点ではありません。
争点は、安全配慮義務の具体的内容と義務違反に該当する事実(過失)の存否です。
言換えますと、争点(本件訴訟の主たる争点)は、大会主催者に具体的な安全配慮義務違反があり、その結果参加選手の死亡事故が生じたのか、それとも本件は、参加選手の全面的な操作ミスによる自損事故なのか、ということです。
この主たる争点の内容とその主体(原告と他の被告たる大会主催者が主体。連盟は、主体ではない)については、とても重要ですから覚えておいていただきたいと思います。
その1−3.「自己責任の原則」と「安全配慮義務」の関係及び補足説明
A それでは、この「安全配慮義務」と「自己責任原則」との関係はどのように考えれば良いのですか。
C 結論からいえば、「安全配慮義務」は、「自己責任原則」を前提としている。すなわち、両者の関係は、前者は後者を前提とする関係にある、と考えれば良いのではないでしょうか。
民法を含む私法の一般原則として私的自治の原則があります。これは、人はその自由な意思によらなければ義務を課せられない(権利を得、奪われる事は無い)という原則です。この原則には、契約自由の原則と過失責任の原則が内包されていると言われます。
人は、国法秩序の範囲内で、自由に他の人と意思の合致(契約)をすることができます。
また、自由な意思によってなした行為の結果について、過失がある場合には、責任を負わなければなりません。要約的に言えば、自由意思で行為できる人はその結果に責任を負わなければならない。 すなわち、これを「自己責任原則」と表現できるでしょう。
この「自己責任原則」は、「私的自治の原則」の一部を示すもの、とも言い得るでしょう。
自己の行為の結果に責任を負いうる自由な意思を有する人を、民法を含む私法一般は、その大前提としているのです(すなわち、原則)。
このような自己責任を負いうる自由な意思を有する人同士の意思の合致が契約です。
そして、この契約に付随するものとして安全配慮義務は位置付けられています。
以上のように整理しますと、先に結論として示した、「安全配慮義務は、自己責任原則を前提にしている」という意味は理解していただけるのではないでしょうか。
ついでに、「安全配慮義務」について若干補足します(読み飛ばしても結構です)。
「信義則(民法第1条2項)上付随する」の意味ですが、例えば、ご自分が、あるバス会社のバスで某地まで行く乗車券を購入したことを考えてください。
何年何月何日何時に某地にバスで輸送する義務がバス会社に発生します。
さて、約束の期日にそのバス会社は、あなたを某地まで運びましたが、途中バスの中で軽度の火災が発生し、あなたの着物や持ち物は焼け焦げてしまいました。手に火傷も負負っています。 確かに目的地には着いたけれどもあなたは納得できないはずです。
バス会社は、顧客を約定の期日に指定地まで送り届けるという債務を負うだけでなく、顧客の安全・健康等を損なわないという(損害を与えない)義務を負うと考えるのが常識的(公平)でしょう。 最高裁判所によれば、安全配慮義務とは、「ある法律関係に基いて特別な社会的接触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務」です。
「社会的接触の関係」例えば、契約関係に入ろうとする者同士の間には、『人は、当該具体的事情の下において相手方から一般に期待される信頼を裏切ることのないように、誠意を持って行動すべきである』という原則(=信義則)が適用される。
この信義則の具体的現われが、「安全配慮義務」です。
裁判所の見解をこのように読みかえれば理解し易いのではないでしょうか。そして、あなたが、「常識的だ」(公平)と考えることの法的表現が「信義則」であると言い得るでしょう。ですから「信義則上」とはかかる意味と理解していただいて良いと思います。
A なんとなく理解できました。 自己責任原則は、原則ですから、参加者パイロットのみならず、大会主催者も自己責任を負っている。 この自己責任を負うもの同士の利益の調整ないし危険の負担の配分原理として「安全配慮義務」が位置付けられると理解しても良いのですね。
C はい。
B そうすると、本件訴訟で大会主催者側に具体的な「安全配慮義務」違反が、仮に裁判所に認定されたとしても、「自己責任原則」が「破壊」されるという議論(立論) は、全く成り立たないということになりますね。
C,D その通りです。さすがは会長、担当理事ですね。理解力の高さに感服致しました。
B そうおだてないでください。なにもでませんよ(笑)。
ここで、少々休憩としませんか。Cさん好みのアールグレーの紅茶とアップルパイ でもいただくことにしましょう。
一同 そういたしましょう。
その1−4.「自己責任の原則」補足―「過失相殺」
A アップルパイがおふくろの味とは、しゃれていますね。え、ビーフシチューもですか。
横浜育ちの方は、やはり違います。 私など、やはり同じ鍋物といっても、カタカナの食べ物は思い浮かびません。ハタハタと困ってしまいます。
それはそうとして、ちょっと先ほどの事に関連してお聞きしたいことがあるのですが、よろしいでしょうか。
「自己責任原則」は原則であるから、「破壊される」などという立論自体はそもそも問題にもならず、また、大会主催者も参加選手も自己責任を負っているということはわかりましたが、やはりハンググライディングの危険性を十二分に認識しているパイロット(参加選手)の自己責任の「度合い」は大きなものではないでしょうか。
C はい。その点は、これまでの議論で明示してはきませんでしたが、前提となっています。一般論として、練習生レベルから選手レベルの パイロットへと技量が上がるに比例しての自己責任の「度合い」も大きくなると言えるでしょう。
これは、裁判実務において通常の考え方です。
A 具体的に、本件を含めた訴訟では、どのようなことになるのですか。
D 最終的には、裁判所が認定した参加選手の危険回避の判断能力から、当該参加選手の過失部分を算定し、これを控除(減額)して賠償額が決定されることになります。
B それが「過失相殺」(民法第722条)ですね。
D はい。そうです。
A 今のお話は、大会主催者側に具体的な安全配慮義務違反があると裁判所に認定されたことを前提にされていますね。
D はい。
A それでは、大会主催者に安全配慮義務違反があっても、参加選手の自己責任(=自己過失)は、考慮され得るということですね。
B やはり、それほどに選手(パイロット)の自己責任は重いということなのでしょう。
C,D その通りです。
A これで、すっきり理解できました。
C そして、参加選手の操作ミスについては、これを主張する側に立証する責任があります。
B 過失相殺において、操作ミスの存在とその程度が重度であればあるほど有利になる立場にあるのは、被告たる大会主催者ですからね。
C そのように考えてよろしいかと思います。
その1−5.共同訴訟について ?
B それでは、始めましょう。
素朴な疑問ですが、原告の請求の理由づけは、被告甲・乙と連盟とでは異なっているのに何故、同一訴訟手続きで審理がなされているのでしょうか(問題点?)。
A 私もその点が良く理解できません。甲・乙すなわち大会主催者は安全配慮義務違反があったか否かという主たる争点の主体とされている一方、連盟は「公認大会において安全指導をすべきなのにこれを怠った」等という異なる理由ですし、そもそも、連盟と他の被告の立場は異なるのではないでしょうか。
B 要するに、立場の異なる被告三者が一体として訴訟を提起された理由がわからないし、被告の側が一体となって訴訟を追行しなければならないのかもわからないのです。
D まず、立場の異なる三者(甲氏、乙社及び連盟)が共同被告となったのは、共同訴訟という訴訟形態が認められているからです。原告の請求すなわち損害賠償請求権は、大会中の事故、すなわち被告三者に共通の事実等に基いていますので、この共同訴訟の要件を充たすのです(民事訴訟法第38条)。 また、たとえ、原告が、甲・乙と連盟を別箇に訴えたとしても、裁判所が、釈明権を行使し(同法第149条)、弁論を併合(同法第152条)して、同一の手続で審理を行うこともあり得ます。そのほうが、時間、労力、費用の節減や矛盾判断を回避しうる等の点で便宜だからです。
A 共同訴訟という手続が採られたゆえ、同一期日に呼び出されて、立場の異なる被告三者と原告が訴訟を進める形になっているのですね。 この点は、わかりました。
しかし、立場の異なる被告の側が一まとめにされて訴訟が進行すること、つまり、訴訟手続という外枠のことではなく、訴訟の内容面であるところの、訴訟の基本方針や主張・立証等についても一体となることは、法的に要請されているのでしょうか(問題点?)。
C はい。「被告の側が一体となって訴訟追行すること」が法的要請か、すなわち、主張・ 立証等を一体となって(共同して)しなければならないか、(問題点?)についてですが、答えは、法制度的には、否です。 理由は、以下に述べる事にします。
先にD委員の説明にありましたように、本件は、共同訴訟の形態をとっています。
この共同訴訟には、通常共同訴訟と必要的共同訴訟があります。「答えは、法制度的には、否」とした理由は、本件が通常共同訴訟であるからです。 が、説明の必要がありますね。
その1−6.共同訴訟について II
A,B はい。お願いします。
C (固有)必要的共同訴訟とは、第三者がある夫婦に対して婚姻無効を主張するような場合(の訴訟)です。
円満な家庭を築いている夫婦の一方と第三者との関係では、この夫婦の婚姻は無効であるが、この夫婦の他方と第三者との関係では婚姻は有効である、ということはあり得ません。この夫婦は円満、夫婦相和し、もちろん当人同士は事実上も法律上も夫婦であると思っているのですから。
つまり、これは、関係者全員について矛盾の無い判決が必要な訴訟です。
この夫婦の一方に対して横恋慕した某氏または某女史(=第三者)が、訴えを提起したのでしょう。
これに対し、通常共同訴訟は、ある土地の所有者Xが、この土地に勝手に小屋を立てて住んだり、店舗を建てて商売を始めた甲、乙に対して、「出ていってくれ」と主張 するような場合(の訴訟)です。
この場合、甲も乙も勝手に(=所有者に無断で)住んだり、商売を始めたのですが、乙については、その後Xとの間で話し合いが持たれ、賃貸借契約が成立した、とかXが乙を気に入ってしまい、乙が土地の管理をすることとひきかえにこれまでのことを水に流すだけでなく今後も無料で住むことに同意した等ということもあり得ないとは言えません。 もう一つ具体例を挙げますが、債権者Xが連帯債務者甲、乙に対して支払請求をする場合についても、同様に言えるでしょう。
つまり、これは、関係者全員について矛盾の無い判決は必ずしも必要ではない訴訟です。言換えれば、時間・労力・費用の節減という便宜上いっしょに審理する訴訟の形態です。
Xは、当初甲と乙に対して自分の土地をともかくも明渡してもらうべく(または貸し金等々を返済あるいは弁済してもらうべく)訴えを提起したのでしょう。
以上を前提にして、本件訴訟を考えてみましょう。
原告の請求は、被告である連盟と外二名に連帯して5千万円の支払いを求めるという 内容です。
原告としてはともかくも5千万円の請求をしたという形ですが、被告三者のうちの 一方については請求する理由がないことがわかったので、訴えを取下げたり、また 折り合いがついた等ということもあり得ます。だからといって、他方との訴訟が意味を失うわけでは
ないでしょう。このように、本件は、原告と被告全員について矛盾しない判決が必ずしも必要と言う場合ではありません。
上述の具体例、勝手に土地を使用した(または連帯債務者)甲、乙の場合と同じであることにお気づきのことと思います。 そうですね。 本件は、通常共同訴訟です。
この場合は、各当事者(被告)は、他の共同訴訟人の訴訟追行に制約されることなく、それぞれ独自に訴訟を追行しその効果をうけることとなります(共同訴訟人独立の原則、法第39条)。また、共同訴訟人の一人の主張が、他の共同訴訟人のためにもなされたと評価すること(主張共通の原則)は、弁論主義(当事者本人が主張した事実だけが裁判の基礎となるとの原則)からも認められません。 この点は、とても重要です。以上から、連盟が訴訟を独自に追行すべき法的地位にあることは、明白と解されます。すなわち、「被告の側が一体となって訴訟追行しなければならないか」という問題点?への回答は、否ということになります。
ここまで述べたことは、連盟が、他の被告二名と共同して訴訟を追行する必要性(がない)ということと同義です。連盟が、他の被告二名と共同して訴訟を追行する許容性について(問題点?)は、次のように言い得るでしょう。 すなわち、本件は、実質的には連盟会員間の紛争であるから、法人運営の観点から連盟は、公共性の自覚に立って(公平・中立性を維持しつつ)訴訟を追行すべきである。したがって、他の被告二名と共同(訴訟代理人、主張・立証を共通に)するべきではない(「共同」の許容性は無い)。
もう少し詳しく説明して!!!!
A となりますと、「原告は三者一括として訴訟を起こしているので、それをこちら側か ら別々にしてくださいと言う筋合いではないとの理由で、一訴訟に対し一弁護人でよろしい」という議論は、かなり大雑把な素人判断であって適切ではなかったということですね。(やや青ざめながら)
D そうなりますね。 そのようなアドバイスをした者に特定の意図すら感じます。(…)
C まあー、仕方なかったのではないでしょうか。
不適切な点を把握したのですから、今直ぐに改善すれば良いのです。(笑)
A,B そう言っていただけると気持ちが楽になります。(苦笑い)
B この辺で小休止としませんか。少々小腹もすきましたので、いつもの讃岐うどん屋はいかがでしょう。
一同 それは良いですね。 そういたしましょう。
C おや!? Dさんは少し不満顔ですね。 そういえばこのまえから稲庭うどん屋に行きたがっていましたね。
今日は、時間が無いから次回は是非行きましょう。
その1−7.連盟の意思決定と弁護士倫理の問題について
≪休憩終了≫
A それでは再開します。
B 常識的に考えて、複数被告間の利益(目的)が一致している場合には一体となって訴訟を追行するのが普通でしょう。ただ、連盟は公益法人ですから、仮に他の被告と一体となって訴訟追行する場合も、その方法つまり訴訟代理人の選任や準備書面、書証等の提出は、別個に行うのが妥当と思います。
外形的にも公平性、中立性を確保して、会員からの信頼を維持すべきだからです。
先ほどの「連盟が他の被告2名と共同して訴訟追行する許容性はない」とは、このこ とですね。
D そのとおりです。
被告間に利害の対立がなくても訴訟代理人は別個にするほうが信頼維持の観点からは適切です。 連盟は、公益法人ですから、特にこの点は注意が必要です。
他方、被告間に利害の対立がある場合は、訴訟代理人は、別個でなければならなくなります(問題点)。
A どういうことでしょうか。
D 利害の対立とは、「本件事故の真相についてどのように考えるか」に関するとらえ方立場の違い、と理解していただければ良いと思います。
D 民法は(依頼者)本人の利益を著しく侵害するおそれがあるため双方代理を禁止しています(民法第108条)。本件の依頼者とは、連盟と他の被告二名のことです。
利害が相反する依頼者の双方について、代理人が適切にその職務を行うことが極めて難しいことはお分かりいただけると思います。
そして、弁護士倫理26条は、弁護士の利害相反事件の受任を禁止しています。
これは、弁護士法25条の規定(弁護士に対する懲戒申立てについての規定)を拡張したものと言われています。
「利害相反にあたるか否かは、法律面からみた事件の客観的性質・内容によって定まるもので」「形式的に利害が相反するとみえる場合であっても、実質的に利害が相反しない場合は、これにあたらない」。「両当事者の協力が事件全体の解決のため、双方にとって有利である事案であり、現に協力関係が存在している場合に、双方間の利害相反が将来発生する論理上の可能性が存在していてもいまだ顕在化していないときは受任しても差し支えない。ただし、相反の可能性につき依頼者全員に十分説明し、受任について同意を受ける必要があろう」(日本弁護士連合会編「注釈弁護士倫理」114 頁)。
複数の者からの依頼はよくあり(典型的には遺産分割など)、そのほうが依頼者の協力が得られ有利な場合が多いからです。
その後、事件処理の過程で、依頼者間に利害が衝突するおそれが出てきた場合、弁護士は各依頼者に対しその事実を告げなければならない(倫理32条)。
告知後については何も規定はないが、依頼者全員との関係において、その利害の衝突を解消するよう努め、それが不可能と判断された場合速やかに受任関係の解消手続に入り、紛議をきたさないよう努める義務を負う(注釈146頁)、とされています。
A 弁護士は被告間で利害相反つまり、本件事故に関する立場の違いが生ずるおそれが出てきた時、またその可能性があるときは、それを説明する義務があるのですね。
とすると、依頼者本人の意思を決定する時に共同被告である他の依頼者と同様の結論に達するように要望したり、ましてや誘導や画策等することは、弁護士としては、厳に慎むべきことなのですね。
D そうです。してはならないこととされています。
A わかりました。
B それでは、「利害相反」に関して、本件訴訟についてはどういうことになりますか。
D 本件を考えてみますと、これまでの被告側(三者共通)の主張は、亡和泉恭子氏の全面的な操縦ミス(過失)に基づく自損事故であり、大会主催者について安全配慮義務に欠けるところはないというものです。
この主張であれば連盟と他の被告たる大会主催者は、利害相反の関係ではないでしょう。
しかし、仮に、被告間で、連盟は安全配慮義務の主体にはならないが大会主催者は安全配慮義務違反がある、あるいはその逆である、ということが争点になれば、利害相反することになります。
また、連盟は本件事故が亡和泉氏の全面的な操縦ミス(過失)に基づく自損事故であるとの前提に立つことはできないと、法人としての連盟が考えているのであれば、同様に利害相反の問題が生じますので、委任者として連盟は弁護士に考えを伝え、委任関係を解消する等、依頼者間で調整する必要があります。
A とすると、安全性委員会の事故調査報告書の内容は大変重要であり、定款・規程からすると、連盟の認識、意思は、この安全性委員会の報告書に基づいて適正に確定されなければならないということですね。
B 理事会が同委員会に匹敵する客観的資料を用意できない以上はそうなりますね。
C まさにその通りです。
本件はその意味では、弁護士倫理の問題よりも連盟の意思決定すなわち、安全性委員会の報告書の内容がどのようなものであり、理事会がこの報告書をいかに扱うか、が第一に重要なのです。
D そして第二に弁護士倫理の問題となります。
これは、連盟理事会の意思決定が前提になっていますから、この問題は、現訴訟代理人(連盟顧問弁護士は、本件を委任されていないので無関係)のみならず、理事会(の当該意思決定に加わった理事、棄権した理事)の問題でもあります。
現訴訟代理人の理事会での発言及び同人作成の報告書、連絡書及び要望書を検討してこの点は、近いうちに明確にして報告する予定でいます。
B 今日の説明を聞いて、何故理事会は、法務委員会の提案を否決したのか、全くわけがわからなくなりました(鎮痛の面持ちで)。
C,D 当委員会の提案を拒絶した理事会の多数派の方々は、連盟が他の被告二名と訴訟代理人を共通にし、且つ主張・立証も全く同一にする必要性と許容性を明確に説明すべきですね。 いまだにこの点は、不明確なままです。(平然とした表情で)
A そうですね…。 (一同、しばし沈黙)
B 「敗訴すると、パイロットの自己責任原則が破壊される」というのは、荒唐無稽な戯言(たわごと)ということもわかりましたし。
そうそう、「すべては、パイロットの責任で、その他の関係者は責任追及されるべきではない」というのが「航空界の常識である」という見解(?)がありますが、これについてはどうなのでしょうか。
法律論として成り立たないことは、既に先の説明で明白ですが、この「航空界の常識」というのがひっかかるのです。
C その点も近いうちに明確にしますのでご安心ください。
B わかりました。楽しみにしています。
A いずれにしましても、本件訴訟の全体像がなんとか把握できそうです。
本日はありがとうございました。
B 良い機会ですからお聞きしたいのですが、Cさん、Dさんのお話は、お二人の主観的ご意見というよりも、判例・学説特に判例(裁判所の見解)をベースにされているように思えたのですが。
C,D その通りです。
B 私、個人的に少し勉強したいと思うのですが、何か良い本を紹介いただけますか。
D 「ケーススタディ スポーツアクシデント」伊藤 堯著があります。
これまでの話題に関する判例も多く掲載されています。
B 民事訴訟一般についてはどうでしょう。
C ええと、いろいろあるのですが、…
A そろそろ、終電の時刻も近づいてきましたので、歩きながらうかがうといたしましょうか。
一同 そうですね。